今回は、プロ写真家の六田晴洋様をお迎えして、
2018年6月21日にインタビューさせていただきました。

六田 晴洋(ろくた はるひろ) 31歳 ※2018年6月現在
プロフィール
2005年 日本大学生物資源科学部1年生の時 趣味でカメラを始める。
2009年 大学卒業と同時にフリーランスの自然写真家として活動を始める。
2014年 テレビ番組制作会社に入社。
2018年 再びフリーランスでの写真活動を始める。

主な活動
・文藝春秋 2012年4月号 特集「みちのく小さな生き物の四季」
 1年間に渡って撮影した東日本大震災後の野生生物の写真を掲載

・読売新聞夕刊 2012年4月~2013年3月 科学面「里やまに生きる」連載
 週に1回、身近な里山に暮らす生き物たちを写真と文章で掲載

・各出版社が発行する子供向け写真絵本において、小動物の撮影を多数担当

・テレビの自然・科学番組のディレクションを多数担当

 

スタッフ

それでは今日はよろしくお願い致します。

六田

お願い致します。

スタッフ

まず写真を始められたきっかけから、おうかがいしたいと思います。

六田

はい、大学に入ってアルバイトを始めたのですけど、そのアルバイト先の先輩が、2歳くらい年上だったんですけれど、別の大学で写真部に入っていらっしゃって、それで「写真面白いよ」という話は良く聞いていました。ただその時は「そうなんだ」くらいにしか思っていませんでした。それで大学一年の夏になって、通っていた大学が窓口になっているボランティアに参加しました。沖縄に行って野生動物の調査とか保護とかをやったんですけど、そこに周りのみんなが結構カメラを持ってきていたんですよ。

スタッフ

沖縄ですからねえ。

六田

その時に「カメラって面白そうだな」と思ったので、バイト先の先輩にカメラが欲しいと相談しました。そうしたらその先輩の行きつけということで、この大貫カメラを紹介してもらったんです。

スタッフ

ではもういきなり、大貫カメラにいらっしゃったわけですね。

六田

「日の出町に大貫カメラっていうカメラ屋があって、色々と教えてくれるよ」という事で来てみたんですけど、そうしたら店員の櫻井さんにもう本当に一から教わって……それこそシャッタースピードとは何か、絞りとは何かとか教わりました。その時はニコンのF3を買ったのですけど、それこそフィルムの入れ方から教えてもらいました。

スタッフ

最初はフィルムカメラを買われたのですね。その当時であれば、デジカメはそれなりに普及していたと思いますが。

六田

そうですね、ニコンD70とかあの頃だったと思います。でもその当時はフィルムとデジカメの違いも、良く分かっていなかったんですよ。

スタッフ

それまではカメラは使った事は無かったのでしょうか?

六田

いわゆるコンデジみたいな物を使って旅行の時に撮影したり……今のスマホみたいな感じで使ってはいましたね。でもそれを「カメラ」という風には認識はしていなかったです。もう全部オートで撮影をしていましたし。それでカメラを一から始めるのであれば、フィルムカメラで写真が出来る仕組みから勉強した方がいいよ、と店員の櫻井さんにも言われたので、それでニコンのF3を購入しました。

スタッフ

あの当時……2005年前後だと、もうフィルムカメラも相当下火だった頃ですよね。フィルムを買うのも大変だったのでは無いでしょうか?

六田

それでも大貫カメラであったりヨドバシカメラであったり……コンビニでもまだある所にはありましたね。現像もまだ街中で、やっている店がちらほらと残っていました。さすがに自分で現像などはしていませんが。それでそのフィルムの36枚の中でいかに撮影をしていくか、という事などを勉強していましたね。

スタッフ

アルバイト先の先輩が、たまたま大貫カメラの常連で、たまたまお店の場所を教えてもらったのがカメラを始めるきっかけだったということですね。では、カメラ歴=大貫カメラ歴になるわけですね。

六田

そうですね。

スタッフ

当時初めてフィルムカメラを触ってみて、いかがでしたか?

六田

いやもう本当に楽しかったですね。機械をいじる面白さがありましたね。

スタッフ

デジカメとは違う、機械をいじる楽しさということですよね。

六田

最初の頃は今みたいに自然の物を撮影していたのでは無く、色々な物を撮影していました。写真を撮る事自体が面白かった時期ですね。その時は別に仕事にしようとかは考えていなくて、ただ趣味で撮影をしていただけですが……。

スタッフ

大学では生物を専攻されていたという事ですが、その頃から動物や生物などの写真も撮られていたのでしょうか?

六田

そうですね……大学の友人などから「カメラ持ってるなら撮影頼むよ」みたいに言われて、研究の記録用に撮影とかもしていましたね。それで撮影をしていくうちに、生き物とか自然などの撮影も面白くなっていきました。でも当時はそこまでは……動物を撮るのに例えば一眼じゃないといけない、という事もありませんですし。そこは最初のうちはあまりリンクしなかったですね。ただ生き物の撮影も楽しいな、と気づけたのは研究があったからですね。色んな場所にも行きましたし。

スタッフ

ではプロのカメラマンになろうと思ったのは、いつ頃からでしょうか?

六田

大学三年生の時に就職活動をするわけですが、将来の仕事を決めることになって、何か野生動物に関わる仕事がしたいと思ったんです。でもそういう仕事って世の中にほとんど無いんですよ。

スタッフ

話は前後しますが、動物などはずっと好きだったんですか?

六田

はい、子供の頃から生き物は大好きでしたね。でも生き物関係のことを仕事にしようとすると、研究者になるか……いずれにせよ相当限られてくるんですよ。

スタッフ

そうですよね。

六田

そんな時に「野生動物のカメラマン」という仕事がある事を知って、じゃあそれをやってみようと……

スタッフ

そこでカメラと野生動物が結びついたわけですね。それまでは、特に野生動物ばかり撮影していたというわけでは無かったのですね。

六田

はい。風景であったり、色々なものを撮影していました。

スタッフ

でも「野生動物を撮る」といいますけど、それを仕事にするっていうのはどうすればいいのか、とか思いませんでしたか?例えばカメラマンの方だったら師匠についたりして、その人がそういう動物方面のことをやっていたので、同じ方向に行ったりみたいなことがあると思いますが……。

六田

大学の授業の一環で特別実習みたいなのがあって、自分の興味ある仕事先にインターンとして三週間くらい行って単位をもらう、みたいな課題があったんです。それで沖縄に昆虫写真家の方がいらっしゃって、連絡をしてその方の所に行きました。その時に、仕事としてどうやればいいのかとか、色々な事を教わりました。最初はやはり弟子入りみたいなことをしないといけないのかな、と思っていたんですが、そうでは無くてみんな独学でやっているんだ、という事を教わったりしました。「始めから一人でやるのが結果的に近道になるよ」みたいなアドバイスもいただきました。

スタッフ

免許とか資格が必要なものでは無いですからね。

六田

そうですね。それでその方に話を聞いたり、やり方を参考にして、独学で進むことにしました。

スタッフ

野生動物の写真家になるにあたって、具体的にどのような事をされたのですか?

六田

まず今世の中に出ている生き物の写真、虫とか動物とか植物だったりを、どういう写真が世の中に出ているのかをすごい調べました。その上でまずはこういう写真を撮れば仕事として成立するんだ、という傾向を調べたりしましたね。そして調べていく上で、窓口があるのも分かってきましたし。

スタッフ

写真の傾向だったり雑誌社だったりを調べたわけですね。

六田

大学を卒業して1~2年は、そうやって分析して得られた傾向の写真を撮りためて、出版社なり新聞社なりに自分で売り込みに行きましたね。

スタッフ

もちろんその間は、他にアルバイトなどもされたのでしょうけど。

六田

その間はもう本当に、ただの写真好きなフリーターでしたね。

スタッフ

その当時は生き物を撮影するのに、どちらに行かれていましたか?

六田

その頃はお金も無かったので、もう本当に地元周辺でしたね。すごい珍しいものとかはいないんですけど、でも生き物が全くいないわけでは無いんです。それで気づいたんですけど、世に出ている写真の中ですごい珍しい生き物の写真ってあまり無いんですよ。ナショナルジオグラフィックなどでたまに「珍しい生き物の珍しい瞬間を捉えました」みたいなのが出る事はありますけど、そういった作品で生活していけるか?と考えると、まず無いだろうと。

スタッフ

そうですね、見つけるだけで大変ですからね。

六田

そういうすごい写真を撮る人もいますけど、それよりは誰もが知ってるような身近な生き物の写真を撮る方が、仕事としては成り立つんだな、という事もわかりました。だからあまり遠出するような必要も無いんです。

スタッフ

それこそ近所の、ちょっと緑があるような公園でも、行ってみれば生き物はいますからね。

六田

そうです。

スタッフ

そういうところに足繁く通ったわけですね。もともと生物の研究をされていたわけですから、どこに何がいるとか、これはどういった生物で、みたいなのが良く分かっていらっしゃったわけですよね。

六田

それこそ大学の時に通っていたフィールドにも、良く行っていましたね。

スタッフ

では大学時代の経験が活きたわけですね。そうやって色んな動物を撮影して、様々な出版社などに持ち込まれたわけですが、そういう写真が実際に出版社に使われたことはあったのでしょうか?

六田

最初のうちは使われない事が多かったですけど、でもその中でも何社か使ってもらえるような所が、ちょこちょことありましたね。そういうのを繰り返しているうちに、段々と使われる写真の傾向みたいなものも分かってくるので、どういった写真に集中すればいいのかみたいなのも分かってきましたね。

スタッフ

ではそうした、撮影した写真を持ち込む時期がしばらくは続いていたのですね。

六田

そうですね、はい。

スタッフ

そして2014年にテレビ番組制作会社に入社されるわけですが……

六田

これは色々なきっかけがありました。その中で大きかったのが、やはりずっと一人で独学でやってきて限界というか……生活していく分にはなんとかはなっていたのですが、そこから次の方向性というか広がりみたいなものを考えた時に……それまでは自分の撮りたいものを思うように撮っていたのですが、それを続けていても多分自分一人だけの世界の中でしかないな、と思ったんですよ。もちろん出版社の方とはやり取りはしていましたが、今後「一生の仕事」として続けて上では、もう一段ステップアップをしてみたいな、と思ったんです。色々な意味で行き詰まりを感じていた時期だったんですね。

スタッフ

なるほど。

六田

そこでテレビで色々な動物番組がありますが、ちょっとそういう世界に入ってみようかな、と思ったんです。それでNHKを中心にそうした動物や自然系の番組を制作している会社を見つけて、そこに連絡をして入社ということになりました。それは結果的に、自分にとってとても良い経験になりましたね。なんというか自然の見方には、色々な見方があるんだという事がわかりましたね。

スタッフ

自分だけでは無く、他のスタッフさんとも一緒にやっていくわけですからね。また視聴者の方の意見もあるでしょうし。

六田

テレビは本と違って、とても多くの人が見るんですよ。それだけ反響も多いですし、携わる人もとにかく膨大なので、とても多くの意見を聞けましたね。

スタッフ

制作会社の人であったり、放送局の人であったり、とにかく多くの人の意見が聞けますよね。でもそれはとても貴重な経験ですよね。

六田

はい。

スタッフ

そうしたテレビ制作には、何年くらい関わられたのですか?

六田

今年で5年目になります。今はテレビ番組にも関わりつつ、写真家としての活動もやったりと、両方やっています。

スタッフ

しかし、いきなり制作会社に連絡して、入社させてもらえるものなのでしょうか?

六田

たまたまですね。最初連絡した時は、「今は募集していない」と言われたんですけど、半年後くらいに再度連絡してみたら、「ちょうど一人辞めてしまったところなので、募集しています。」と言われましたね。

スタッフ

ではタイミングが良かったんですね。もちろんそうやって続けて連絡する行動力もあったからなんでしょうけど。ではここからは、実際に写真を見ながらお話をおうかがいしたいと思います。これはどちらで撮影されたのでしょうか?

六田

これは山梨の雑木林の中です。カブトムシやクワガタムシが好きなので、そういった昆虫を撮影するのが好きなんです。それで山梨には2012年ごろから何度も行っていて……それこそカブトムシなどがいる6月から8月頃までの間、車で行って道の駅などで寝泊まりをして撮影をして……という生活を続けて……。そうした中でやはりずっといると、同じ場所でも色々な変化に気づいたりするんですよね。

スタッフ

やはりある程度期間が無いと、そうしたちょっとした変化には気づけないですよね。

六田

そうですね。そうやってあちこち回っていたころに見つけたのが、この写真の雑木林になります。

スタッフ

次はホタルですね。これはどちらで撮影されたのでしょうか?

六田

通っていた大学が藤沢にあるのですが、その近くにあるちょっとした田んぼの脇道ですね。

スタッフ

今だとホタルはなかなか見れないですけど、これは望遠レンズかなにかで撮影されたのでしょうか?

六田

これは105mmか90mmのマクロレンズを使いました。虫にも一匹ずつ性格みたいなのがあって、警戒心が強くてすぐ逃げる奴だったり、神経が図太くてなかなか逃げないようや奴がいたりするんですよ。これは神経が図太い奴に当たるまでずっとカメラを構えていて、それでやっと逃げない奴を見つけて撮影しました。

スタッフ

これでホタルまでは何センチくらいまでの距離なのでしょうか?

六田

大体30センチ程度……ですかね。

スタッフ

結構近い距離ですね。やはりご自身でそういった虫の生態などが分かっていらっしゃる、という事なんでしょうね。

六田

次もホタルですね。

スタッフ

これは長時間露光でしょうか。

六田

これは比較的長時間露光したものを、いくつか重ねています。

スタッフ

1秒撮影して閉じて、また1秒撮影してまた閉じて……みたいな。

六田

そうですそうです。

スタッフ

ホタルがいっぱいいる所なんですね。今は都会ではなかなかホタルは見れないですからね。

六田

そうですね。田舎の方へ行かないとなかなか……。

スタッフ

やっぱりこうした撮影スポットを探すのが、まず大変なのでは無いでしょうか?

六田

そうですね。他ジャンルの事は良くわからないのですが、こういう生き物に関しては、写真の技術とかカメラの種類とかももちろん大事なんですが、まず被写体に出会わないといけない、というのはありますね。

スタッフ

また逃げられないようにしないといけなかったり、季節などもありますからね。

六田

そうです。ホタルであればこれだけ写真にいっぱい映るのは、一年の中で2日か3日……一週間あるかどうかですからね。

スタッフ

撮影に行く前にやはり、あらかじめ場所について調べたりするのですか?

六田

このホタルの撮影スポットに関しては、たまたま大学生の時から知っていた場所です。田んぼの脇に用水路があって、そこに幼虫がいて6月くらいになると成虫になって飛び回っていました。

スタッフ

続いては、これもまた田んぼですね。これもカエルが喉を膨らませた瞬間を撮影しないといけないわけですよね。

六田

そうです。意外と難しいんですよね。膨らんだ瞬間も本当に一瞬なので、何回もストロボを光らせても逃げないような奴じゃないといけないんです。

スタッフ

なるほど。しかし逃げないのを探す、というのもまた大変ですね。

六田

田んぼの真ん中にいるようなのは、もう撮影できないので、あぜ道の近くにいるのを狙わないといけないですね。

スタッフ

しかも姿勢を下げないといけないわけですよね。

六田

はい、もう泥だらけになって撮影します。

スタッフ

続いては……

六田

これはモリアオガエルの産卵シーンです。木の枝にメスが一匹いて、そのメスの周りにオスがたくさん集まって産卵しているところです。

スタッフ

こういう写真こそ、狙って撮れるようなものでは無いですよね。

六田

これはまたタイミングが難しくて……。静岡にある池なんですけれど、これを撮影する目当てで行ったんですよ。でもまさに産卵している時に当たる、というのはやはりなかなか厳しくて……。雨上がりに産卵する、とかある程度の習性はもちろん分かっているんですが、それでも全くいなかったりする事は何度もありましたね。

スタッフ

私の勝手な動物写真家のイメージだと、それこそどこかにテントを張って何日も待ち構えているみたいなのがあるんですけど、そういう事はされたりするんですか?

六田

僕の場合はテントを張ったりは、あまりしないですね。車を近くの置けるところに駐車して、その中で何日か生活するようなスタイルですね。

スタッフ

機材とかは、全部一人で運ばれるわけですね。

六田

はい。この時は周辺の木に同じような塊がいくつもありました。

スタッフ

でもこういうのは、ほんの数時間ずれただけで撮影できなくなりますよね。

六田

ええ、そうですね。やはりタイミングを合わせるには、それだけしょっちゅう行っている必要がありますね。

 

スタッフ

次は蛇ですね。

六田

シマヘビですね。これも田んぼで撮影しています。

スタッフ

やはり田んぼには、いっぱい生き物がいるということなんでしょうか?

六田

生き物がいる田んぼといない田んぼがあるんですよ。おそらく使っている農薬の違いだったりするんでしょうけど。「生き物がいる田んぼ」には、本当にこんなに生き物がいるんだ、っていう位いっぱい生き物ががいますね。蛇がいたり……蛇がいるという事は、エサになるカエルがいるし、カエルがいるということは虫がいるという事ですし。人間の作った田んぼの中に生態系がある、というのは面白いですよね。

スタッフ

蛇を撮影しに行くと、ついでにカエルも撮影できたり……みたいな事があるわけですね。

六田

ありますね。

スタッフ

続いては魚でしょうか。

六田

イワナですね。

スタッフ

これは水中カメラを使われたのですか?

六田

これはD800というカメラを、防水のパックに入れて撮影しました。

スタッフ

カメラをまるごと入れる事が出来るような、防水パックですね。

六田

そうです。これは山形の渓流だったんですけど、撮影の時はフレームが見れないので、もう当てずっぽうでシャッターを切りました。魚がいっぱいいる所でシャッターを押しまくりましたね。

スタッフ

全然何も映っていないという事もあるわけですよね。そうなるとやはり、フィルムよりデジタルの方がありがたいですよね。

六田

そこはもう、圧倒的にデジタルの強みだと思います。何度も撮り直しできますからね。

スタッフ

続いてはクワガタですね。

 

 

六田

ノコギリクワガタですね。あと蝶とハエも映っています。子供の時から虫が好きだったんですけれど、両親がこういうクワガタのいるような所へ良く連れていってくれましたね。

スタッフ

ご両親もこういう虫が好きだったのでしょうか?

六田

すごい好きというわけでは無かったと思います。それで子供の頃は木を見上げて、「カブトムシがいる!」と感動してたりしていたのですが、大人になってそういう写真を撮りたいな、と思っていました。

スタッフ

これはでも、クワガタがいるという事は早朝の撮影ですよね。

六田

そうですね。カブトムシやクワガタは早朝に出てきますから。

スタッフ

では夜中からいって、セッティングして待っていて……。

六田

夜はまた別の生き物を撮影していたりするんですが、それで朝になって帰ろうとする時に、「あそこに何かいるな」と気づいて望遠レンズをつけて撮影する……みたいな感じですね。

スタッフ

例えば、夜中のうちに木に蜜か何かを塗っておいて集めて……みたいな事はされないのですか?

六田

蜜を塗っても……本物の樹液がある場所では、全く効果が無いんですよ。良く子供向けの本とかに「木に蜜を塗るといっぱい集まってきます」みたいに書かれていますけど、あれの信憑性って結構怪しいんですよ。やっぱり本物の樹液にはかなわないみたいなんですよね。

スタッフ

へえ、そうなんですか。

六田

写真とは関係なくなりますが、本物の樹液ってどれだけ甘いのか舐めてみた事があるんですよ。でもほとんど味がしないんですよ。人間には全く味がわからないくらいなんです。まあちょっと甘いかな……くらいですね。

スタッフ

それが昆虫にはちょうどいい、っていう事なんでしょうかね?あとはニオイとか……。

六田

多分ニオイが大きいんだと思います。でもニオイだけなら、人間が作った人工の蜜でも十分だとは思うんですけどね。

スタッフ

やっぱり何かが違うんでしょうね。

六田

だから他に樹液がある所で人工的な蜜を塗っても、アリとかゴキブリとかしか来ないですね。

スタッフ

面白いですね。

六田

樹液が出ないような場所では、人工の蜜も有効なんですよ。更に言うと樹液が出ている木って、なかなか無いんですよ。一つのエリア、山とか森とかに1本か2本あるか無いかくらいですね。それくらい少ない物なんです。

スタッフ

なんかそこら中で出ているようなイメージがありますけど……。

六田

だから、少ない物だからこそ。そこに虫が集まるんですね。

スタッフ

やっぱりそういうのは、実際にこういう写真を何枚も撮られた方じゃないと、分からないですよね。

六田

そうですね。一夏の間ある地域一帯を回って、樹液が出ているような場所を探した事があるんですけど、でも全然見つからなかったですね。だから樹液がある場所には、本当にいっぱい集まってくるんですよね。

スタッフ

「木を傷つけると樹液が出てくる」みたいな話も見た事がありますが……。

六田

それは半分は正しいです。傷をつけた直後は、確かに樹液が出て虫が寄ってくるんですが、でもすぐ治ってしまうんですよ。

スタッフ

ああー。

六田

治るか、木が死んでしまうかなんです。なので一時的には有効です。ただ……こういうカブトムシやクワガタの撮影スポット的な場所があるんですけど、そこに行くと誰かが傷をつけていて、木がズタズタになっていたりすることがありますね。一度木に傷をつけて樹液を出しても、それは2~3日くらいですぐ出なくなってしまうんですね。それでまた傷をつけて……という事を繰り返すと、その木自体が死んでしまうんですよ。そうなると、もう次の年からその場所には虫が集まらなくなるという……。

スタッフ

では出来るだけ、自然の樹液を探して撮影するわけですね。

 

 

スタッフ

続いては……

六田

これはミヤマクワガタです。栃木の方で撮った写真ですね。僕は個人的には、このミヤマクワガタが一番好きなんです。最初右の方の小さいクワガタを撮影していたのですが、そこに左の大きいのが飛んできて、あっと驚いている間にケンカが始まったんです。これはもうなんというか、クワガタの生活を垣間見れたというか、すごい貴重な体験でしたね。

スタッフ

自然のクワガタのケンカなんて、あまり見れないですよね。そういうのはやはり、しょっちゅう通っていないと見れないですよね。

六田

そうですね。

 

スタッフ

続いてはカミキリムシですね。これもかなり近くから撮影されていますね。

六田

これは魚眼レンズで、本当にレンズ前1センチから2センチくらいの所でしたね。このシロスジカミキリのインパクトある顔を撮ろうと思って、見事に成功しました。木を下から見上げる感じで撮影したので、大変でしたね。

スタッフ

次はこれは蜂の巣ですか?

六田

これはニホンミツバチの巣なんですけど、木のうろの中に巣を作っていたんですよ。それでそのうろの中に入ってきたのを撮ろうと思って、木の中にカメラを入れてワイヤレスで光るストロボを使って、撮影しました。

スタッフ

かなり危険だったんでは無いですか?

六田

まあ、虫に刺されたりとか傷ついたりとかはしょっちゅうですね。

スタッフ

そしてまたクワガタですね。面白い写真ですね。

六田

夕日をバックにしたクワガタですね。やっぱりクワガタはフォルムがかっこいいので、それを強調するような撮り方をしました。

スタッフ

では今はフリーとして写真家の活動もやられていて、同時にテレビの方のお仕事もやられているのですね。

六田

テレビの方は今は契約社員としてやっています。それで年間である程度企画を出して予定を立てて、仕事をする時と休む時を決めてしまうんです。昆虫がいっぱいいる時期などは、仕事を外したりするようにしています。

スタッフ

ではある程度時間が自由に使えるんですね。

六田

はい、毎日出社しなくてもいいですね。

スタッフ

でもそれでこうした写真を撮影してくれば、それはまたテレビでも使えますよね。

六田

テレビの仕事にも、雑誌の仕事にも両方活かせますしね。

スタッフ

ちなみに今は何のカメラを使われていますか?

六田

今はニコンのD800とD850、ソニーのα7R II。後はオリンパスのTG4に、GoPro HERO5 などです。

スタッフ

色々なメーカーを使われていますね。やはり用途によって使い分けられたりしているのでしょうか。

六田

そうですね。今、何のカメラを使うのかというのが、すごい難しい時期にきているかな、という感覚がありまして。昔だったらこういう一眼レフ一択だったんですが、今はミラーレス一眼というのが出てきて、自分の今いる自然写真の業界でも多くの人がミラーレスを使っているんですよ。

スタッフ

それは何か理由みたいなのはありますか?

六田

やはり移動とかが多くて機材を背負って長距離を歩かないといけないんですけど、そこで機材が小さいというのはもうそれだけで武器になるんですよ。

スタッフ

なるほど。確かに場所によっては大きいカメラだと入れないところもありますからね。

六田

そこでミラーレスの小ささというのは、すごい効果的なんですよ。

スタッフ

性能も進化していますからね。

六田

ただですね……僕もミラーレスを使っているんですけど、機能は確かに一眼レフと比べても遜色ないし、同じくらいには来ていると思うんですが、やっぱり機械としての完成度というか信頼性というか……それはまだまだなのかなと。やっぱりまだミラーレスだけですべてを賄う、というのは不安ですね。サブとして、他のカメラと一緒に使って……みたいな形になってしまうんです。本当はミラーレスだけでいければ一番いいんですけれど……。

スタッフ

それは具体的にどういった事が原因なのでしょう。

六田

すごい細かい所になってしまうんですけれど……例えばISOを変えたいとなった時、普通の一眼レフであればダイヤルを回せばタイムラグが無くISOが変わるんですが、今使っているミラーレスだとダイヤルを回した後にISOが変わるのに、コンマ何秒の時間がかかってしまうんですね。

スタッフ

なるほど。変わるまでにワンクッションがあるという事ですね。

六田

そうなんですよ。そしてそれが生き物相手だと、結構命取りになってしまうんです。生き物相手だと本当に瞬間が勝負なので、あまり悠長に待っていられないんですね。

スタッフ

何か見つけたらすぐ撮りたいくらいですよね。

六田

先程のカエルが喉をふくらませている写真だったり、ハチが飛んでいる写真だったりは、本当に瞬間が撮れないとダメなんですね。ほんのちょっと足の位置が違ったりタイミングがずれたただけで、全然変わってきてしまうんです。もう本当に、カメラなんかに気を使っている場合じゃ無いんですよ。撮影しようと思った一瞬だけ太陽が出てきてISOを変えないといけない、となった時に……すぐ変わってくれないと、本当に命取りなんですね。

スタッフ

ほんの0.0何秒とかの話ですよね。

六田

そういう意味では今使っているニコンのD800とかD850は、相当完成度が高いですね。信頼が出来ます。いずれミラーレスが中心になっていくんでしょうけれど、今はまだ……という感じですね。

スタッフ

ちょうど過渡期なのかもしれませんね。これからメーカーの方もどんどんと改良はしていくのでしょうが。

六田

そういう意味では、これからが楽しみではありますね。この重さから開放されるのであれば、それはすごくありがたいですね。

スタッフ

そろそろ最後にしたいのですが、これからもやはりこうした生き物達の撮影を続けていかれるおつもりでしょうか?

六田

そうですね。やっぱり元々好きだったというのもありますし、生き物を撮ると色々な事がわかるんですよ。それまで生き物について知っていたつもりでも、撮影をしようとすると、もっと知らないといけないですし、また撮ってみると新しい発見などもありますし。「撮る」っていうのは、一番「知る」事に繋がる事だなと思います。

スタッフ

研究にもなりますしね。

六田

すごい面白い事でもあるんですよね。だから生き物を、写真・動画にかかわらず撮影するのは、ずっと続けていきたいと思います。

スタッフ

何かこれから撮影したい生き物とかいますか?

六田

そうですね、小さい時に図鑑でしか見れなかったような外国の生き物を本気で撮影したい、というのはありますね。

スタッフ

外国には行かれた事はあるのですか?

六田

何度かはありますけど、特に目的を持って行った事は無いですね。ただジャングルの中をあるいて、目についたものを撮るような感じでした。今後は明確な撮影目標を持っていきたいですね。実は来月ドイツに行こうと思っています。ヨーロッパミヤマクワガタという、世界最大のミヤマクワガタがいるんです。それを撮影してこようと思っています。

スタッフ

では撮影が上手くいくといいですね。今日はどうもありがとうございました。

六田

ありがとうございました。

作品、インタビューなど何でも結構ですので、ご感想をお聞かせください。
お待ちしております!
大貫カメラ: ohnuki.c@lily.ocn.ne.jp