今回は、アマチュア写真家の渡部春治様をお迎えして、
2019年2月26日にインタビューさせていただきました。

渡部 春治(わたべ はるじ)
アマチュア写真家

スタッフ

それでは今日はよろしくお願い致します。

渡部

お願い致します。

スタッフ

失礼ですが現在のお年をおうかがいしてもよろしいでしょうか?

渡部

65歳になります。今年の4月で66歳になります。

スタッフ

お仕事は何をされているのですか?

渡部

今は無職です。以前は自営でクリーニング店を、私の父がやっていたお店なのですが、その後を継いで営業していました。

スタッフ

クリーニング店は、最近だとフランチャイズ系のお店が多いですが……

渡部

昔からあるクリーニング店ですので、そういったフランチャイズでは無く、自分の所で受け付けてクリーニングをして…というような、いわゆる職人がやっていたようなお店です。そういう職人がやるようなクリーニング店は、まさに僕の年代が最後でしたね。意外と知られていないんですけど、クリーニングって「クリーニング師」という国家資格が必要なんですよ。厚生大臣の認可が必要なんですよ。

スタッフ

そうなんですか?それは知りませんでした。

渡部

それで昭和40年代くらいからチェーン店が増えてきまして、そういう所は代表者だけ資格があれば、後は届け出をするだけでいいんです。でも僕の時代は一人ひとりが資格を持っていた時代ですし、また今みたいに学校があるわけでもありませんでした。だから父親が師匠だったんですよ。父は大正初期の生まれで、技術というものは師匠のやる事を横で見て自分で磨くものだ、と教わりました。

スタッフ

まさに職人の世界ですね。

渡部

そういった中で、仕事に使う道具を乱暴に扱う人というのは、やっぱり仕事も乱暴だというような事を教わりましたね。「道具を見ると仕事がわかる」といいますが、まさにその通りなんです。それはまさに「こだわり」という事なんですけど、職人はそういった「こだわり」を無くしてはいけないですよね。

スタッフ

確かにそこが一番大切ですよね。ではそうやって若い頃から、クリーニングをお仕事としてやられていたのですね。

渡部

そうですね、40年近くやってきました。実際にはその間にも、他に色々とやったりもしていたんですけどね。例えば大貫さんみたいに、カメラの販売をしていたこともありました。

スタッフ

そうなんですか。

渡部

子供の頃から写真は好きで撮っていたので、写真方面に進みたかった時期もあったんですが、結局そちらには進めませんでしたね。

スタッフ

ではカメラ歴は、かなり長いのですね。現在は趣味として写真を撮影されているのですね。

渡部

ずっとというわけでは無く……10年ほどブランクはあるんですよ。体力的な事もあって、一時期カメラから離れていた事があるんです。でもそれではいけないなと思って、最近になってもう一度カメラを始めたんですよ。もう一度カメラに本腰を入れてからは、まだ10年経っていないくらいですね。

スタッフ

なるほど。

渡部

ですから大貫さんには、それこそ高校生の頃から来ていたんですけれど、今みたいに店員さんと親しく話したりみたいな事は無かったです。ごく普通のお客さんとして、近所に来た時には寄る程度でした。

スタッフ

では大貫カメラと親しくなったのは、ここ10年程度ということでしょうか?

渡部

今の持塚店長と話すようになったのは、本当にこの2年くらいですね。そもそも店長と話をするようになったきっかけが……フィルムの話が出来るということなんです。今はフィルムの事が話せる人が少なくなっているんですよ。

スタッフ

確かにデジタルカメラが普及して、もう15年近くになりますからね。大手量販店の店員でも、フィルムカメラを触った事は無いかもしれないですね。

渡部

持塚店長は僕と違って、写真学校を出ていらっしゃいますからね。僕はたまたま近くに、師匠というか先生みたいな人がいらっしゃったんで、色々教わりました。

スタッフ

はい。

渡部

その師匠の言いつけで当時「質感描写」ということで、当時フィルムで2,000枚の写真を撮らされたことがありました。

スタッフ

フィルムで2,000枚ですか……?

渡部

「鉄」というテーマで、36枚撮影して現像してその先生の所へ持っていったのですが、「鉄の冷たさが出ていない」と言われたんですよ。

スタッフ

はあ……。

渡部

それは結局「鉄の冷たさ」って何だ?っていう事なんですよ。でもそれって結局「主観」なんですよ。つまり自分のイメージする「鉄の冷たさ」と、先生のイメージする「鉄の冷たさ」は違うものなんですよ。そのような課題をやっていて分かったんですけど、そういう写真を撮る事が出来る人が「プロ」なんだよ、という事なんですよね。つまり「クライアントの要望に応えられるかどうか」という事なんです。

スタッフ

確かにそうですね。撮影者にとっての「いい写真」と、クライアントにとっての「いい写真」、見る人にとっての「いい写真」は厳密には全て違うものですからね。

渡部

なので写真の勉強としてはとても正しかったんですけれど、ただ自分は趣味を仕事には出来ないな、と実感しました。こんな事をしなければいけないのなら、自分は「趣味」として自分の撮りたい写真を撮っていこう、と思いました。

スタッフ

確かにそこが趣味と仕事の分かれ目ですよね。

渡部

写真を仕事にするのであれば、割り切る所は割り切らないといけないですし、自分の納得できない物でも撮影しないといけないですし。だから今、趣味としてやっているのが一番楽しいといえば楽しいですね。自分の思い通りに出来ますからね。

スタッフ

なるほど。

渡部

でも最近は知り合いの手伝いで、成人式の写真や小学校の遠足の写真などの撮影を手伝う事もあります。それは知り合いだから、という部分が大きいですね。それから僕はこのデジタル全盛の時代に、いまだにフィルムも使っているんですよ。だからそういう手伝いの撮影の時は、いつも緊張しますね。

スタッフ

今お使いのカメラはライカですか?

渡部

今日持ってきているのはデジタルです。ライカのM10-Dというカメラです。デジタルだけどモニターが無いんです。撮影したものを確認する時は、パソコンやスマホにリンクさせないといけないんです。だからフィルムカメラの感覚で撮影できるんです。

スタッフ

確かにフィルムカメラは、撮影してすぐに確認できないですね。

渡部

ライカのレンジファインダーって、フォーカスもマニュアルですし、AFも無ければ手ぶれ補正も無いし、フィルム時代のままなんですよね。自分の中で原点回帰では無いですけれど、写真を撮り始めた当時の感覚で使えています。それに若い頃に「いつかライカで撮影をしたい」という夢があったのが、ここ数年ようやく買えるようになりました。

スタッフ

なるほど。

渡部

このシャッターを押す、という行為そのものが昔のフィルムカメラの感覚になりますよね。デジタルだとどうしても大量に撮影をしてしまいますけど。もちろん大量に撮影できるのが、デジタルの最大の利点なのですが。

スタッフ

はい。

渡部

例えば僕は良く若い人に言うんですが、何か被写体を撮ろうとしたらワンカットだけ撮影するのでは無くて、一歩ずつ前後左右に動いてもう4カット撮ってごらんなさいと。そうすると対象物が色んな表情を見せてくれるんです。まずそれを勉強した方がいいよ、と言うんです。表情というのは、ひとつだけでは無いという事なんです。これは写真表現の基本だと思うんですよ。

スタッフ

先程の写真の先生のお話にも通ずるものがありますが、色々な見方をしないといけない、という事ですよね。何かひとつだけの見方に囚われてはいけない、という事ですね。

渡部

だから……「綺麗な写真」というのはいっぱいあるんですけれど、でも「綺麗」ということと「いい」ということは別物なんですよね。写真って個性が入っていないと「いい」物にはならないんですね。つまり正解が無いものなんです。

スタッフ

やっぱり撮る人によって全部違いますし、見る人によっても全部違うものですからね。

渡部

似たような写真はいっぱいあるけれど、じゃあ自分ならどうするか?というのがあるから面白いんですね。これは写真だけでは無くて、例えばレンズとかそうなんですけど、どうして昔のレンズが好まれるかというと、人間が設計して一本一本手作りなんですよ。ライカなどは特にそうですよね。大量生産品では無いから、一本一本に個性があるんです。

スタッフ

同じ規格の中でも微妙な違いがある、という事ですよね。

渡部

今のレンズは例えば20本あったら全部同じ性能ですけど、昔のレンズは一本一本違うんですよ。カメラにも同じ事が言えます。だからライカ愛好家の間では「いつか自分に合ったレンズが一本は見つかる」と言われているんです。

スタッフ

なるほど。

渡部

でも現実問題として、お金が続きませんけどね。

スタッフ

ライカはとても高額ですから、大変ですよね。

渡部

実は去年の4月にパリへ撮影旅行で行ったついでに、ドイツのライカ本社を見学してきたんですよ。そこで、どうしてライカが高いのかが納得できました。職人さんが一人ひとり手作りで制作しているんです。これはやっぱりそれなりの値段がするなあ、と良く分かりました。

スタッフ

ではここからは、撮影されたお写真を見ながらお話を進めていきたいと思います。これは氷川丸の写真ですね。

渡部

これはこの鳥をメインで撮影しました。だからこの飛んでいる鳥がいないと、成立しない写真なんです。この鳥がいないと、本当に寂しい写真になりますよね。そしてこの二羽はつがいなんですよ。だから二羽を両方とも撮影したんです。

スタッフ

確かに鳥が一羽しかいないと、また違った写真になりますね。こういう風景写真を中心に撮影されているのですか?

渡部

風景……というよりスナップ写真ですね。どうもポートレートって苦手なんですよ。あくまでも個人的な考えですけど、ポートレートって簡単に撮影できるね、というイメージがあるんです。というのも、ポートレートは被写体がもうそこにいるじゃないですか。

スタッフ

そういう見方も出来ますね。

渡部

モデルさんがいて、撮影用のポーズをしてくれて……でもスナップは、撮影するものをまず自力で探さないといけないんですよ。

スタッフ

なるほど。

渡部

実は若い頃にデパートやスーパーなどの、チラシ用のモデルさんの撮影をしていた事があるんですよ。当時のモデルさんはプロだったので、こちらが黙っていても、ちゃんとポーズを取ってくれていたんです。でも今は、モデルさんとカメラマンがコミュニケーションを取ったりあれこれしないといけなくて…それをやらないといけないのかなあ?なんて思ってしまう事がありますね。

スタッフ

もちろんそうやってコミュニケーションを取ることで、より良い表情が出るという事はありますよね。

渡部

確かに和やかになったり、という事はありますね。

スタッフ

続いてはこちらですね。これも横浜ですね。

渡部

山下公園です。普段撮影をするのは横浜の山の手にある外交官の家辺りから赤レンガ、桜木町、みなとみらい、あとは鎌倉の辺りになりますね。新しいカメラを買ってテスト撮影などをする時は、いつも決まったところで撮影をしますね。だから同じ所の写真が何百枚とあります。特にテスト撮影なので、被写体が変わってしまうと意味が無いんですよ。

スタッフ

確かにそうですね。

渡部

日時とか天候はしょうがないですけど、同じ物を撮る事でカメラの比較が出来るんですよね。

スタッフ

この写真は右側の女学生達を撮影しようと思われたのですか?

渡部

……意図した部分もありますが、必ずしも狙ったというわけではありません。半々というところですかね。でも若い時は、こういう何も考えずに、勢いだけで撮るような撮影を良くしていましたね。これはたまたまその頃のような、勢いのある写真が撮れたと思っています。

 

スタッフ

これはどちらの写真ですか。

渡部

先程もお話しました、ドイツのフランクフルトにあるライカ本社です。このすぐそばに100年前のライカのエンジニア、オスカー・バルナックが撮影をしたというポイントがあるんですよ。その場所で彼と全く同じアングル、同じ建物を撮影しました。

スタッフ

ライカ好きなら、誰でも知っているという写真ですね。

渡部

ドイツには昨年、10日ほど行ってきました。最初はパリだけの予定だったんですが時間があったので、ついでにドイツにも行ってきました。

スタッフ

続いては日本ですね。

渡部

これは山下公園ですね。これもやはり先程の鳥の写真と同じように、人間がいないと寂しいんですね。後この人達の位置ですよね。もっと近くても遠くてもいけないんですよ。

スタッフ

確かに人の位置が変わるだけで、かなり印象は変わりますね。

渡部

個人的に顔がハッキリ見えるのは、嫌なんですよ。

スタッフ

今は肖像権の問題などもあって、色々うるさいですからね。

渡部

僕も先日某カメラ店で、取材している所にたまたま立ち会ったんですけど、その時にやはり「顔が入ってしまいますけど、大丈夫ですか?」と聞かれましたね。

スタッフ

続いては…

渡部

これは江ノ電の極楽寺駅です。これもそうなんですが、あまり考えないで撮影した方がいい物が撮れる気がしますね。意識してしまうと、どこか力んでしまうんでしょうね。何か固くなるんですよ。

スタッフ

なるほど。

渡部

例えば良く4枚の組写真を作るんですけど、その時にまず最初にテーマを決めるんです。そうしないと絶対撮影できないですから。それで撮影をしても3枚まではなんとか撮影できるんですけど、残り1枚がなかなかいいのが撮れないですね。

スタッフ

では普段はあまりそういう意識して撮影は…

渡部

あまりしないですね。悪くいうと、たまたまの産物が多いのです。

スタッフ

続いては……

渡部

これはパリのコンコルド広場です。木村伊兵衛という写真家が、1954年に同じ構図で撮影をしているんです。さきほどパリ旅行の話が出ましたが、それはただこの写真を撮りたいためだけに行ったんです。実際には今はこの獅子の像の左側に大きな観覧車が見えるんですよ。でも当時はそんな物は無かったんです。なのでそこはトリミングしてあります。もう年も年なので、思い切ってパリへ行ってきました。

スタッフ

これからどこか撮影旅行などは、ご予定はありますか?

渡部

今決まっているのは、上海ですかね。ライカの撮影会なんですけれど。参加費が30万円します。

スタッフ

高いですね。

渡部

でもそこがライカなんですよ。例えば今度4月に、京都の平安神宮神苑でやはりライカ主催で撮影会があるんですよ。それでご存知のかたもいるかと思いますが、平安神宮神苑って一般には非公開なんです。そこに入れるんです。

スタッフ

スケールが違いますね。そう考えると、妥当な値段ではありますね。

渡部

紅葉のシーズンに庭園を貸し切るなんて、なかなか出来ないですよ。

スタッフ

カメラはもうずっとライカを使われているのですか?

渡部

いいえ、若い頃は当然買えませんでしたし、小学生の頃は祖父が持っていたニコンSPというカメラを使って、東京オリンピックの撮影をした記憶があります。それで後になって知ったんですけど、かなり高価なカメラだったみたいですね。当時の値段で40万円くらいしたそうです。

スタッフ

相当高価ですね。

渡部

それで高校生になってアルバイトを始めて、高校一年の冬に自力で買ったカメラがペトリのV6というカメラでした。当時27,800円くらいだったかな?でも今考えると良く買えたなあ、と思っています。というのも、当時アルバイトしてもらえる給料が月に10,000円だったんですが、そこから高校の月謝や定期券代とか食事代など諸々払っていたんですよ。手元にはほとんど残らない計算になるんです。その中でどうやって貯めて買ったのか、今でも不思議ですね。

スタッフ

カメラを買うとフィルム代も必要ですからね。

渡部

そうです。好きだから出来たんでしょうねえ。無我夢中でした。でも今振り返ると、一番楽しい時期だったかもしれませんね。本当に勢いだけでやってきましたね。

スタッフ

好きだからこそ出来たんでしょうね。

渡部

大変ではありましたけどね。だから先程の写真の師匠にも言ったことがあるんですよ。「僕は学生なので、お金がありません。それで写真を2,000枚も撮らされた。そこまでのフィルム代やら現像代やらとてもじゃないけど、続けられません」と。でもそうしたら「しょうがねえなあ」なんて言って、ポケットマネーで50,000円くれましたね。

スタッフ

それはすごいですね!

渡部

それを持って仲間と一緒に、フィルムやら印画紙やらを買い出しに行った覚えがあります。お金はすぐに無くなりましたが。

スタッフ

フィルムも相当お金がかかりますからね。

渡部

それでも当時高価だった、トライXというフィルムは買えませんでしたね。それで仕方なく安いネオパンSSSというフィルムを倍に増感して撮影する、なんて事をしていましたね。

スタッフ

やっぱり好きだから出来た、という事ですね。今日はどうもありがとうございました。

渡部

ありがとうございました。

作品、インタビューなど何でも結構ですので、ご感想をお聞かせください。
お待ちしております!
大貫カメラ: ohnuki.c@lily.ocn.ne.jp